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六甲山国際写真祭レビュー参加レポート

2013年にスタートした「六甲山国際写真祭」。
海外の著名写真家なども来日した豪華なこの写真祭に、写真家の柴田秀一郎さんが参加!
会場の様子や、貴重なポートフォリオレビューの模様などのレポートを寄稿いただきました。

文責・写真(クレジット無のもの):柴田秀一郎
1963年東京生まれ。2005年に「標(しるべ)~バス停にて~」により、第11回酒田市土門拳文化賞・奨励賞を受賞。
2010年「バス停留所」(リトルモア)出版。 syashinka.com


海外では数多くの国際フォトフェスティバルが開催されているが、神戸の六甲で開催されることになり、大変楽しみだった。

主催者は、神戸のギャラリー「TANTO TEMPO」のディレクターである杉山武毅さん。彼は世界の写真界の登竜門として著名なサンタフェで、2013年唯一の日本人レビュアーだったことでも知られている。日本の写真文化に、グローバルな視点を根づかせたいと思う杉山さんの志を同じくする仲間と「RAIEC」を設立し、今回の「六甲山国際写真祭」を立ち上げた。会期中は、主催者の志の高さに感銘を受けた方が多く参加していた。筆者もそのひとりである。自分にとって海外の名だたるレビュアーに日本でレビューしてもらえるのは、まさに待ち望んでいたことだったのである。とくにニューメキシコの写真エージェンシーで、サンタフェの責任者であるローラ・プレスリーを日本に連れてくることが今回の超目玉であった。

プレスリーさんPB081739.JPG

今回の重要人物である
サンタフェの責任者ローラ・プレスリー

2013年11月8日(金)~10日(日)の会期とわずか3日間ではあったが、濃厚でしかも写真だけを考えることができた幸福な時間を、参加者と多くのゲストとともに共有できた。時系列で、良かった点と改善を求める点を踏まえてレポートする。

1日目午前

<開催宣言とアントワン・ダガタ基調講演>

AGATAさん講演PB081682.JPG

アントワン・ダガタ氏

AGATA講演を聞く千村さん作品_DSC5192 (1).JPG

アントワン・ダガタの講演を真剣に聞く
参加者と中央の筆者(撮影・千村明路)

レビュアーの目玉が前述のローラ・プレスリーならば、今回のゲストの目玉だったのが、世界的な写真家集団マグナムに所属するアントワン・ダガタだった。アントワン・ダガタに関しての説明スライドショーがスタートすると、全員が釘づけになった。セックス&ドラッグに真正面に取り組んだ作品。被写体に、自傷していると思われる作品が多々あったように思う。彼の作品は、基調講演にふさわしいと思った。

なぜなら参加者全員を覚醒させてくれたからだ。とくに彼の「安全と安心の中に写真は無い」という言葉は、強烈に脳裏に刻み込まれた。彼の人生そのものを作品の中で観たように思う。これに接して、「自分ももっと精進しなければ」と思った方は多いのではないだろうか。とくに自分は一度評価された作品群を3年も引っ張っているため、まさに安全安心の中で写真活動していることを恥じ、その場に居られないほどだった。

1日目午後

<ポートフォリオレビューに参加>

海外のフォトフェスティバルでは、ポートフォリオレビューはごく普通に開催されている。ポートフォリオレビューは写真家と作品を扱う専門家とのお見合いの場といえるだろう。写真編集者やギャラリスト、美術館の学芸員、出版社の経営者たちで、世界標準の20分の時間内で、自分の作品をプレゼンして売り込みをかける場である。

良かった点


1. いちばんの良さは、ホームである日本で海外のレビュアーのレビューに参加できる幸せである。フランスのアルル国際フォトフェスティバルに参加して費用面を中心に大変だっただけに、その喜びも大きい。日本ではこれまでありえない、と言われてきたので、なおさらだった。
2. 今回は主催者が通訳を手配してくれていたから、英語が苦手な方でも大手を振ってレビューに臨むことができた。このことは、精神的かつ経済的な負担の軽減として、大変大きかった。このことで、来年以降参加者が増えるようになるのではないか。ただし通訳は各レビュアーについているので、事前に僕たちと打ち合わせをすることができないルールになっていた。
3. 主催者側から「写真家がレビューの主役である」のメッセージが徹底されていたことも、良かった点のひとつだ。従来の日本の写真界のパターンでは、先生と呼ばれる大御所写真家が、写真勉強中の方々(アマチュア写真家など)の写真を見てあげて、指導してあげるという世界観から脱却しにくいように思えたからだ。写真家が写真家を評価するこれまでの常識を脱ぐい去ろうとするのは、大変価値があると思った。
4. 事前にレビュアーの希望を提出するのだが、希望が先着順ではないので、落ち着くことができた。アルルでは、一瞬のうちに人気レビュアーが締切になった。そのことで僕はとても焦らされたうえに、がっかりさせられた。
5. 今回はレビューに申し込みをすれば、シンポジウムなどは無料で参加できた。実はアルルでは、レビュアーに申し込んでいても別料金だった。全体を考えると、大変割安感があった。

改善を求める点


1. 主催者からレビュアーの希望をネットで聞いてきのだが、レビュアーの希望が通ったのか? どうか? 教えてもらえなかったこと、これが大変不安だった。※アルルでは、日本からの渡航前にネットですべて予約状況が把握できた。事前にレビュアーの連絡先を調べてコンタクトを取ることも、作品や著作物をチェックすることも可能であった。来年以降、改善されることを期待している。
2. 費用は8人のレビュアーに見てもらって、3万円だった。アルルでは、290ユーロ(当時のレートで日本円にして約3万円)で、10人に見てもらうことができた。レビューだけで比較すると、少しだけ割高感がある。またレビュアーの選択肢が、日本人を含めて13人だった。来年以降は認知度も上がり、参加者とレビュアーの絶対数が増えて選択肢が増えることを期待する。

1日目夜

<シンポジウム>

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シンポジウムに臨む、左から主催者の杉山武毅、
アンバー・テラノヴァ、ひとりおいて、ローラ・プレスリー、
太田菜穂子、馬場伸彦(撮影:幸村千良佳)

石井陽子さん通訳PB081761.JPG

シンポジウムでの一コマ。参加者の石井陽子さんが
フランス語のレビュアー二人に通訳する場面

良かった点


1.主催が掲げるキーワード「六甲山教育と交流の芸術構想」に基づいて「写真はコミュニケーションである」という宣言からスタートした。まさにその通りであると思った。言語が異なっていてもカメラさえあれば、または作品さえあれば、共感ができるわけだ。このイベントを通じて、写真は、世界に門戸が開かれている感を強く感じた。
2.このシンポジウムから東京や地方からの参加者が合流し、写真祭りらしくなってきた。
3.もうひとつの主催が掲げるキーワードは「教育」であった。海外に写真を発表する場合は、その海外の宗教観や世界観、そして欧州を含む世界の美術史を学ぶ必要があるというメッセージには、深く感銘を受けた。自分だけの世界観に没頭して、不勉強なままひとりよがりな写真を発表してしまう一部の写真家へのアンチテーゼだった。不勉強な方は、穴があったら入りたかったと思われる。

改善を求める点

 

1. 主催側は「日本の写真界で博士号などの学位を有している方が少なすぎる。海外はこの層が大勢いるので、より高等教育の必要性がある」と訴えていたが、少しフライングに聞こえた感があった。写真作家をやっていくうえで、学歴が必要とは思えないからだ。「写真はコミュニケーションである」という命題からもずれがあったように思え、私は混乱してしまった。
2. 全員が英語と日本語を理解できれば問題ないのだが、大勢の参加者が聞くのであれば工夫が必要であると思った。たとえば海外の参加者に日本語を届けるときのことを考えて、イヤホンジャックを渡しておくなど事前の準備が必要であると思った。

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