写真家の物語 ~テラウチマサトが見たイタリアの古都~
誰の目の前にも平等に広がる風景をカメラで切りとる行為が写真だとすれば、
写真家が何を見て、何を感じ、それを表現する為にどんなカメラを使ったのかに、
写真表現の違いは生まれてくる。
「御苗場vol.14横浜」で行われたテラウチマサトのトークショーの
内容を特別版として公開します。
写真家にとって大事なことはなんでしょうか。それは、選択をするセンスです。何を撮るかも選択だし、どんなカメラを使うかも選択です。今回の旅で言えば、どこで撮影をするかというのも選択になります。
今回の私はイタリアという地域を撮影場所に選択しました。ローマから入っていて、途中エズ村というニースとナポリの間にあるような小さな村に行き、その後フィレンツェ、モデナ・ヴェネチアと北上していったんですね。
なぜ、イタリアにしたかというと、いくつか理由があって、イタリアというとすぐ女の人を見たら口説くっていうイメージがありまよね?でも、実は意外と堅くて、離婚率はとても低いことになぜ?と興味を持ちました。(笑)
まじめな理由を言うと、現在65歳以上の年齢率は日本が世界で1位なのですが、2位がイタリアだったからです。日本が、世界で最初に高齢者社会を迎えようとしている国だとすれば、2番目がイタリア。そのイタリアがどんな暮らし方をしているかを見たかったのです。
カメラの選択はソニーのα7というカメラにしました。長い旅だったので、機材は軽くしたい、だけど画質は落としたくなかった。そこで、フルサイズの撮像素子を持つミラーレス一眼にソニーが世界で初めて挑戦して出した言う事もあって、このカメラを選択しました。
誰もやらなかったことに挑戦していくという企業姿勢に、僕は結構胸を打たれたところがあります。ちょうど2000年に「PHaT PHOTO」という写真雑誌を出したとときも、こんな雑誌は絶対うまくいかないと言われました。「御苗場」を2006年にスタートしたときもそう。当時は40ブースを集めるのがやっとだったんです。
僕らはそういう風に新しい事にチャレンジをすることが好きなので、これまで誰もやらなかったフルサイズの撮像素子をもったミラーレスカメラを作ったという事に興味と敬意をもったのです。挑戦をするという事は、表現やクリエイティブに携わる人間にとって必要な選択肢だからです。
イタリアという街は、とても面白い街です。芸術作品のようなものが街の至るところに飾ってあって。この街を歩いていると、なぜ教会の壁のような場所に深い彫刻をしていくのだろう?というような事に興味がわくんです。あえて、彫り難いところに彫刻を施すのはなぜだろう?と。
テラウチマサト
1954年生まれ。日本実業出版社を経て1991年に独立。ポートレイト、風景、プロダクトから空間まで、独自の表現手法で常に注目を集める写真家。中でも、ポートレイト作品においてはこれまで6000人以上の俳優、モデル、タレント、経営者などの著名人を撮影。テラウチにしか撮らせないという声も多い。また、風景作品では、その場所の魅力を着実に捉える力を評価され、行政からの撮影要望も多い。モノやコトの“隠れた本質”を捉える着眼点や斬新な表現手法に、イベントプロデュースから、町興しのオファーも集まる。写真家としてのクリエイティビティを活かした幅広い創作活動を得意とする。米国マサチューセッツ工科大学で講演、2012年パリのユネスコ本部から招聘され写真展示するなど、海外からも高い評価を得ている。
http://www.terauchi.com/