―――ヴェネチア・ビエンナーレでも展示される次のプロジェクト「The Enclave」について教えてもらえますか?
「The Enclave」は「INFRA」が最終的に進化したプロジェクト。16ミリのコダック・エアロクロームを使って撮影した40分の映像で、撮影した写真をスキャンして高解像度動画に落とし込んだ作品なんだ。ヴェネチア・ビエンナーレでは、アイルランドを代表する“アイリッシュ・パビリオン”にある大きな暗室内に6つのスクリーンを用意して、そこに投影する予定さ。スクリーンは両サイドから見ることができて、彫刻的な迷路のような仕上がりになる。観客は能動的に作品を体感しないといけないんだ。作品の音と映像に応じて移動しながらね。
「The Enclave」は全体を通してスタイルが変わるんだ。人類学的なモノから隠喩的なモノへ、そして叙情的なモノから超現実主義なモノや不合理なモノへと変化する。この作品は3つの“R”に焦点を当てていて、ひとつ目がドキュメンタリー・リアリズムの“リアル”、二つ目はジャック・ラカン的な“リアル”、そして最後はニュース映画の“リール”。コンゴで撮っていた初期のころの写真と異なる理由としては、動画と静止画があまりにも違った“生き物”だから。動画は音楽のように心にすぐに訴えかけるけど、静止画はもっと思慮深く、終わりがなく、でも距離感があったりする。「The Enclave」はかなり本能的な作品で、怖い部分もあると思う。静止画では同じような手法でここまでは表現できない。ゆっくりと燃えるタイプだから。
この作品には持てるすべてを注ぎ込んだ。すべてがそこにある。輝くような風景の美しさや不安定な情勢と紛争がまじわって僕はとても独特な場所へ行き着くことができた。コンゴを旅していると、とても澄んだような感じもするし、完全に混乱に陥ったりもする。白日夢が悪夢に変わってしまう。その旅が進むにつれて、紛争のさらなる奥へ入っていくと、この心理状態がさらに尖ってくる。とてもパーソナルだけど、昇華物を追い求めるための作品作りなんだ。格好自体はこぎれいなドキュメンタリー写真家のようだけど。
「The Enclave」は2012年に北キヴ州と南キヴ州の間で悪化していた紛争を描いた作品。難民収容施設、茂みに横たわる死体を発見したことを表現する子どもの子守歌、予言者からもらった銃弾で撃たれても死ななくなる薬で守られる反乱兵士たち、道に横たわる腐った死体、子どもたちが炎の輪を飛び越える反乱プロパガンダの集会、迫撃砲が飛び交う中、実際の紛争をおさめた映像、梅雨の季節に輝く風景、燃えるように輝く不快なピンク色。これらが今回の作品の被写体で、スタイルと犯罪の結晶化を通して表現されているんだ。
―――プロジェクトを通してオーディエンスに一番伝えたいことは?
このプロジェクトは、答えを示すというよりは質問を投げかけるモノ。でも作品の鮮明な色はパソコン画面ですごく良く映っているし、ブロガーやタンブラー上でいろいろと出まわっている。インターネット上でたまたま見つけてくれた人に魅力的に思われたらこのプロジェクトも成功したことになるんだと思う。ショッキングな色で驚いてもらって、1分でもいいから東コンゴの悲惨な惨劇について少しだけ学んでもらえたら良いね。
さらなるゴールは、観客を挑戦的で邪悪な世界に夢中にさせること。人間が多大な苦痛を味わっている状況における美的価値を探求しながら。僕の作品の根本的なところには、両極端の世界を衝突させることにある。物語が言語を超えて存在できるぐらい耐えがたく表現できるアートの可能性と、具体的な惨劇を記録して世界へと発信できる写真の可能性を衝突させたいんだ。
リチャード・モス
1980 年アイルランド・キルケニー州生まれ。2013年ヴェネチア・ビエンナーレで、アイルランドを代表する「アイリッシュ・パビリオン」内にて、新作『The Enclave』を展示。大きな暗室内に6つのスクリーンが用意され、16 ミリのコダック・エアクロームを使って撮影した40 分の映像が投影される。スクリーンは両サイドから見ることができ、観客は作品の音と映像に応じて彫刻的な迷路を移動しながら能動的に作品を体感できる。www.richardmosse.com